* 「敬老の日」に寄せて
 〜平成一揆のはじまり〜 「介護崩壊」前夜
 今年も「敬老の日」がやってきた。新聞紙上には在宅介護をめぐる事件−高齢者虐待、介護殺人、介護心中なる活字が泳ぐ。先日、山口地裁で介護殺人未遂の裁判員裁判が行われ、懲役4年の求刑に対して、介護疲れを理由に情状酌量され、保護観察付執行猶予4年となった。
 10年前、鳴り物入りで登場した介護保険制度が家族の介護負担を軽減していないのである。小泉改革の社会保障費抑制政策のもと06年の介護保険改定で「給付の抑制」、「予防重視」への方向転換により、要介護認定が低めに設定されたり、利用者が必要なサービスを受けられなくなったり、介護事業所の収益悪化と人材不足、介護スタッフも報酬カットと過労働に苦しめられている。
 かように、きつい、汚い、しかも低賃金を強いられている状況のため、若者が介護の世界に拒否反応を示し、全国の介護士養成校は、学生が集まらず、止むなく閉鎖に追い込まれている。平成9年、介護福祉科40名、社会福祉科40名で華々しく開校した尾道YMCA福祉専門学校の今年の卒業生は.16名、入学生は18名で、経営不能となりYMCAは撤退、来年から他の社会福祉法人が経営することになっている。開校当初の2年間、教壇に立ったが、教室を埋め尽くしたあの個性豊かなエネルギーは、どこに消えたのだろう。
 官僚の現場を見もせず、現場の人のことも考えず、「給付の抑制」のことのみを重視しパソコン相手に、はじき出された複雑なルール、報酬体系は国民のことなど眼中にない。
 さらに、医療費抑制のため、病弱な高齢者をケアする療育病床数13万をゼロに、医療療養病床数を25万から15万に減らされ、追い出された高齢者が十分な家庭介護を受けられないまま「介護難民」となる人は4万人といわれている。団塊世代が70才となる平成27年には二〇〇万人の「介護難民」が路頭に迷う可能性があるといわれている(大和総研の試算)。
 「介護給付の抑制」「人材不足」「介護離職」「介護疲れ」「介護事業所の破綻」「介護事件」「介護難民」これら新聞紙上を賑わす活字は、このままでは「介護崩壊」と予告している。

 医療費亡国論の誤解

 財務省は、日本総医療費34兆円(07年)が日本国を滅ぼすと言う。しかし総医療費には、給与から天引きされる医療保険料、患者の窓口負担金、市町村の負担金等が含まれ、国家予算83兆円の中から出資される国の負担分は約8兆円。これが高いか安いかは財務省でなく国民が判断することである。
 ちなみにGDPに占める国民医療費割合はOECD加盟30ケ国中、日本は22位(05年)。天下り先で元官僚に給与として支払われる税金は12兆6千億円らしい。まさに絶句である。

新政権のもとで

 さて、今回の衆院選で民主党が圧勝した。新政権のマニフェストの医療・介護の項には◎社会保障費2200億円の削減は行わない◎後期高齢者医療制度の廃止◎医師、看護師など医療従事者の増員◎ヘルパーなどの給与を月額4万円引きあげて介護にあたる人材の確保とある。
 これが実現できれば多少は明るくなる。もっとも小泉改革以前にもどっただけだが−。問題は官僚の抵抗である。国民を蔑視した明治以来のこの官僚支配は何とかならぬものであろうか。今こそ、国民一人ひとりが覚悟をもってスクラムを組み、閉塞感でタメ息するのも息苦しい官僚支配をぶっ壊さなければならないと思う。そういう意味では、われわれは平成一揆のスタートラインに立たされている。
 生きている間に、官僚による官僚のための政治の終焉を体験したいものである。

「山陽日日新聞発表の論文を引用」(2009年9月20日)